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東京地方裁判所 平成7年(ワ)15358号 判決 1999年12月28日

原告

二ツ森修

右訴訟代理人弁護士

高橋理一郎

(他六名)

被告

学校法人國士舘

右代表者理事長

西原春夫

右訴訟代理人弁護士

俵正市

苅野年彦

坂口行洋

寺内則雄

小川洋一

井川一裕

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が原告に対し、平成六年一〇月六日通知した同月七日から一〇日間出勤を停止する旨の懲戒処分(以下「本件懲戒処分」という)が無効であることを確認する。

二  被告は原告に対し、四二四万五八四〇円及び内金四〇〇万円に対する平成六年一〇月六日から、内金二四万五八四〇円に対する同月二六日から、それぞれ、支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は原告に対し、別紙記載の仕様による文書を、被告理事全員及び教職員全員に対し、各一回配布せよ。

第二事案の概要

本件は、被告設立の国士舘大学体育学部教授である原告が、被告から受けた一〇日間の出勤停止を内容とする懲戒処分が違法であると主張して、被告に対し、その無効確認、出勤停止期間中の賃金の支払を求めるとともに、不法行為に基づき、慰謝料等の支払、関係者に対する謝罪文の配布を求めたものである。

一  争いのない事実

1  被告は、教育基本法及び学校教育法に従い教育を行うこと等を目的とする学校法人であり、右目的を達成するために、国士舘大学、国士舘短期大学、国士舘高校、国士舘中学校を設立している。

2(一)  被告の寄附行為である学校法人国士舘寄附行為(以下「国士舘寄附行為」という)には、次の定めがある。

一一条二項

この法人の業務は、理事会で決定する。

一五条一項

理事会の議事は、法令及びこの寄附行為に別に定めるもののほか、理事総数の過半数で決する。

(二)  被告の就業規則である国士舘大学及び短期大学教員規則(以下「教員規則」という)には、次の定めがある。

二条

教員は、職務遂行に当たり、次の事項を守らなければならない。

一号

諸規則を守り、職務の遂行に専念すること

三号

教員としての品位を保ち、学園(学校法人国士舘及びその設置する学校をいう。以下同じ)の名誉と信用を高めること

四条本文

教員の人事(採用、昇格、異動、休職、復職、退職、解雇及び懲戒)は、教授会等の議を経て行う。

二〇条

教員が、教員としてふさわしくない行為を行い、学園の名誉若しくは信用を傷つけたとき、又は職務上の義務に違反し、若しくはこれを怠ったときは、懲戒処分を行う。

二一条

懲戒は、次の種類により行う。

一号 戒告 始末書を提出させ、将来をいさめる。

二号 減給 労働基準法九一条の範囲内とする。

三号 出勤停止 一〇日以内とし、その期間給与は支給しない。

四号 降等級 現職を免じ、等級を降ろす。

五号 懲戒解雇 労働基準法に基づき、即時解雇する。退職金は支給しない。

3  原告は、国士舘大学体育学部教授である。また、原告は、同学部のクラブであるラグビー部の部長兼監督、スケート部の監督、相撲部の部長の地位にあるほか、競技力・奨学生委員会(以下「強化委員会」という)委員長の地位にある。

4  被告は、理事会の決定に基づき、原告に対し、以下の理由により、平成六年一〇月六日本件懲戒処分を通知した。

(一) 原告は、国士舘大学体育学部のクラブであるラグビー部の部長兼監督、スケート部の監督、相撲部の部長の地位、強化委員会委員長の地位及び体育学部教授会構成員の地位により、体育学部入学者選抜に深くかかわっていた者であるが、

(1) 平成六年度体育学部入学試験(スポーツ推薦選考)を受験した受験生Iについて、同人は出身高校の平成二年度全国高校総合体育大会アイスホッケー二位の競技に参加しておらず、また、同大会出場選手として登録されてもいなかったことを承知し得る立場にありながら、出身高校長作成の「推薦書」及び「スポーツ競技歴調書」に出場メンバーであるとの虚偽の記載が行われたこと。その結果、同調書に体育学部作成の「スポーツ推薦書類審査換算表」の「各種全国大会(高校規模)」の「二位」に相当する九〇点の評点が付されたこと(以下「懲戒事由<1>」という)。

(2) その後、Iが受験した一般入試の体育学部後期試験において、強化委員会作成の教授会合否判定資料「平成六年度運動技能優秀学生後期入学試験受験者名簿」の「クラブ名・スケート」の欄に同人名と前記虚偽の競技歴を記載し、同人の成績が受験者総数七五六名中七二四位と甚だしく後順位であるにもかかわらず、同人の合格を支持して体育学部教授会で合格判定に至らしめたこと(以下「懲戒事由<2>」という)。

(3) 平成六年度の体育学部受験生S及びOについて、両名が平成五年度体育学部後期試験を受験し不合格となったところ、本来入寮させるべきでない両名を練習生として入寮させ、練習に参加させた後、平成六年度に受験させ、合格となったこと(以下「懲戒事由<3>」という)。

(4) 右両名の平成六年度一般入試(前期試験)において、出身高校長作成の「推薦書」記載の競技歴を強化委員会作成の教授会合否判定資料「平成六年度運動技能優秀学生前期入学試験受験者名簿」に正確な記載を欠いたこと、特にSの「推薦書」記載の競技歴中「北海道高校ラグビーフットボール大会旭川地区予選団体二位」を教授会合否判定資料に「北海道選抜大会出場」と虚偽の記載をしていること(以下「懲戒事由<4>」という)。

右(1)及び(2)は職務上重大な責任があり、(3)及び(4)は職務上入試に当たり極めて公正を欠いた行為であり、疑惑を受けるものであること。

(二) また、以上の事実は、平成六年八月八日読売新聞で「国士舘大で不正入試」の見出しで関係事実が大きく報道されたほか、同日から翌九日にかけ、NHKテレビ、主要新聞で報道されて世人の知るところとなり、同月九日文部省から事情聴取を受け、指導事項を示されるなど、本学の入試の公正に疑念が持たれ、学園の名誉と信用を著しく傷つけたこと(以下「懲戒事由<5>」という)。

(三) 原告が監督の地位にあるラグビー部の部費・寮費等について、「国士舘大学ラグビー部(代表)二ツ森修」名の銀行口座二口及び「国士舘大学ラグビー部後援会(代表)二ツ森修」名の銀行口座一口を設け、平成五年度に一〇〇名余の部員から総額約八〇〇〇万円余と推定される金員を振込みの方法で入金させ、そのような多額の金員を職務上保管しながら、その収支についての報告は整合せず、指示に反して収支を証する証憑類を開示せず、合宿不参加者に対する返金についても、指示に反して計算書類や証憑類を開示しないので、これらについての文部省からの事情の調査依頼及び父母の疑惑の解明の申入れに対する釈明を不能としていること(以下「懲戒事由<6>」という)。

(四) 以上の行為は、教員規則二条一号及び三号に違背し、同二〇条に該当するので、同二一条三号により懲戒する。

5(一)  国士舘大学における入学者選抜方法には、推薦選考によるものと一般入試によるものとがある。推薦選考には、一般の推薦選考、スポーツ推薦選考(以下「スポーツ推薦」という)などがあり、一般入試には、前期試験及び後期試験がある。

(二)  Iは、平成五年度体育学部一般推薦、同学部前期試験及び後期試験、政経学部二部後期試験を、平成六年度体育学部スポーツ推薦、同学部前期試験及び後期試験、政経学部二部後期試験を、それぞれ受験しているが、平成六年度体育学部後期試験に合格し、他はいずれも不合格となった。

Sは、平成五年度体育学部後期試験及び政経学部二部後期試験を、Oは、平成五年度体育学部後期試験を、それぞれ受験し、ともに平成六年度体育学部スポーツ推薦及び前期試験を受験しているが、両名とも平成六年度体育学部前期試験に合格し、他はいずれも不合格となった。

(三)  スポーツ推薦は、体育学部並びに政経学部一部及び二部で実施しているが、体育学部においては、出身高校長が責任をもって推薦する学生で、<1> 各都道府県高校体育連盟主催の都道府県大会出場者で個人八位又は団体八位以上入賞者、<2> 国民体育大会の各都道府県予選会出場者で個人八位又は団体八位以上入賞者、<3> 右<1><2>の大会以上の地区(ブロック)大会、国民体育大会、全国高校選手権大会、全日本選手権大会、国際大会等に出場した者に出願資格がある。出願者は、入学願書に、出身高校長作成の「推薦書」(これには高校入学後の競技歴の記載欄がある)及び「調査書」、「スポーツ競技歴調書」(これには受験生の競技実績を証明できるような客観的公刊物を貼付する)、「スポーツ推薦面接票」等を添えて出願するものとされている。出願者に対しては、国語の学力試験を実施し、一二月初旬ころ合格者が選抜される。

(四)  体育学部のスポーツ推薦では、国語の学力試験及び書類審査の結果が、それぞれ一〇〇点を満点として点数化され、集計される。ここにいう書類審査とは、出願書類である「スポーツ競技歴調書」記載の競技歴に基づき「スポーツ推薦書類審査換算表」所定の該当点数を付けるものである。このような点数の集計を行う一方で、強化委員会で、各運動部ごとの運動技能優秀奨学生及び優秀生(以下「優秀奨学生等」という)が選考され、名簿が作成される。この優秀奨学生等として推薦できる人数は各運動部ごとにあらかじめ決まっており、優秀奨学生等として名簿に記載された受験生は、ほぼ全員が合格判定を受けている。

そして、スポーツ推薦の募集定員数から優秀奨学生等及び国士舘高校からの内部推薦者の人数を控除した残余の定員について、合格判定が行われる。

(五)  一般入試の前期試験又は後期試験による選考においては、通常の大学入試と同じく、出願者に対して所定の科目の学力試験等が実施される。

このうち、体育学部前期試験では、その合否判定に当たり、学力試験結果のほか、受験生の入試要項所定のスポーツ競技歴(全国大会において個人競技一六位以内の者若しくは団体競技八位以内に入っているチームの登録者又はこれらと同等の技能を有する者)が考慮される。

ただ、入試要項には記載されていないことであるが、後期試験でも、受験生のスポーツ競技歴を考慮して合否判定が行われる場合がある。これは、ウインタースポーツの中には前期試験による選考が終了した後(二月中旬以降)に大会等が行われるものもあって、このような大会に参加して優秀な成績を収めた者にも入学の機会を与えようとの配慮に基づいている。

これらの前期試験又は後期試験の合否判定に当たり、受験生のスポーツ競技歴を考慮する場合には、強化委員会が作成する「運動技能優秀学生入学試験受験者名簿」が検討資料になっている。

6(一)  平成六年度の体育学部におけるスポーツ推薦の出願の提出書類であるIの出身高校長作成の「推薦書」及び「スポーツ競技歴調書」には、Iの競技歴として、「平成三年一月開催の全国高校総合体育大会、アイスホッケー、団体二位」との記載がある。

しかし、Iの出身高校のアイスホッケー部がその成績を収めた当時、Iは同部に所属していたが、右大会の登録メンバーではなく、右大会に出場したのは、同部に所属するIと同姓の別の生徒であった。

(二)  右「推薦書」及び「スポーツ競技歴調書」のIの競技実績の記載は、いずれも、体育学部研究助手小西和敬(以下「小西」という)が記入したものである。

(三)  平成六年度体育学部後期試験の合否判定に当たって強化委員会が作成した「平成六年度運動技能優秀学生後期入学試験受験者名簿」の「スケート」におけるIの競技歴欄には、「二年度全国高校総合体育大会準優勝」との記載がある。

7(一)  平成六年度の体育学部におけるスポーツ推薦の出願の提出書類であるSの出身高校長作成の「推薦書」の競技歴欄には、Sの競技実績として、「北海道高校ラグビーフットボール南北選手権大会団体三位、北海道高校ラグビーフットボール大会旭川地区予選団体二位、北海道指導強化選手選考会団体八位」との記載がある。他方、平成六年度体育学部前記試験の合否判定に当たって強化委員会が作成した「平成六年度運動技能優秀学生前期入学試験受験者名簿」の「ラグビー」におけるSの競技歴欄には、「北海道代表候補選手・北海道選抜大会出場・全道大会出場」との記載がある。

(二)  平成六年度の体育学部におけるスポーツ推薦の出願の提出書類であるOの出身高校長作成の「推薦書」の競技歴欄には、「第四二回広島県高校対抗陸上競技選手権大会・砲丸投げ個人二位、同上円盤投げ個人四位、平成四年日・中ジュニア交流競技会円盤投げ個人七位」との記載がある。他方、平成六年度体育学部前記試験の合否判定に当たって強化委員会が作成した「平成六年度運動技能優秀学生前期入学試験受験者名簿」の「ラグビー」におけるOの競技歴欄には、「広島県代表候補選手」との記載がある。

8  S及びOは、前記のとおり、平成五年度体育学部後期試験又は政経学部二部後期試験を不合格になり、国士舘大学に入学することができなかったが、原告は、右両名を、国士舘大学の学生でないにもかかわらず、東京都町田市(以下、略)所在のラグビー部寮に練習生として入寮させ、ラグビー部の練習に参加させた。

9  平成六年八月八日から九日にかけて、読売新聞を初めとする新聞、テレビなどで、国士舘大学で入試不正があったとの見出しで、I、S、Oの入試問題に関係する事実が大きく報道された。

10(一)  ラグビー部の部費は年額一万二〇〇〇円、合宿費は年度により異なるが約二〇万円であり、寮費及び食費(一日二食、二〇日分)は、それぞれ月額三万円である。このほか、卒業生の送別会費、ラグビー部三〇周年記念誌二冊分代金(一冊七〇〇〇円)、新入部員の入部費一万円等が徴収され、また、後援会費が父母から一口年額一万円徴収され、さらに原告自作の部歌のCD制作費を父母の寄付でまかなっている。

(二)  住友銀行世田谷支店及び横浜銀行生田支店に「国士舘大学ラグビー部(代表二ツ森修)」名義の預金口座各一口、住友銀行世田谷支店に「国士舘大学ラグビー部後援会(代表二ツ森修)」名義の預金口座一口が設定され、これらの口座に前記各金員が振り込まれる取扱いになっている。

11  本件懲戒処分による、平成六年一〇月七日から一〇日間の出勤停止に基づき、被告によって減額された原告の賃金の額は、合計二四万五八四〇円である。

二  主な争点

本件懲戒処分の適否

三  原告の主張の骨子

1  本件懲戒処分は、次のとおり、実体的にも、手続的にも、違法である。

(一) 本件懲戒処分の実体的適否について

本件懲戒処分において懲戒事由とされる事実は、次のとおり、いずれも存在しないか、存在するとしても、懲戒事由としての相当性を欠いている。

(1) 懲戒事由<1>について

原告は、「推薦書」及び「スポーツ競技歴調書」の記載に何ら関与していないから、Iが出身高校の平成二年度全国高校総合体育大会アイスホッケー団体二位の競技に参加せず、同大会出場選手として登録されてもいなかったことを全く知らず、そのことを承知する立場にもなかったものである。

また、Iの競技歴に対しては自動的に九〇点が付与され、そこに原告の裁量が働く余地はないから、このことで原告が責任を問われるいわれもない。

(2) 懲戒事由<2>について

原告は、Iが出身高校の平成二年度全国高校総合体育大会アイスホッケー団体二位の競技に出場していないことを知らず、賞状(書証略)、雑誌記事(書証略)を見て、Iの競技歴を記載したのであるから、それ以上の調査義務を負うものではない。また、原告は、高校三年の夏にIを見て力量を評価し、教授会でその旨の説明をした結果、教授会も「同等の技能を有する者」と判断してIを合格させたのであるから、何ら入試の公正を害したことにはならない。

(3) 懲戒事由<3>について

入試で不合格になった受験生を練習生として入寮させる取扱いは国士舘大学の他の運動部や他大学でも行われているものである。そして、練習生として入寮させるとしても、寮費等は大学生の部員と同額を徴収し、翌年受験して合格しないと入部できないのであるから、練習生だからといって優遇措置を受けているものではなく、何ら入試の公正を害したことにはならない。

(4) 懲戒事由<4>について

原告が被告主張のごとく「運動技能優秀学生前期入学試験名簿」に正確な記載を欠いたという事実はなく、被告が採り上げているのは、単なる言葉の問題であるに過ぎない。例えば、北海道高校ラグビーフットボール大会旭川地区予選団体二位になれば(実際には一位が正しい)、自動的に北海道選抜大会出場の資格が与えられ、Sは実際に北海道選抜大会に出場しているのである。

(5) 懲戒事由<5>について

前記のとおり、Iの件についても、S、Oの件についても、何ら問題はないのであるから、原告が、報道の結果について責任を問われるいわれはない。むしろ、ここで問題とされるべきは、それにもかかわらず、記者会見を開き、疑惑があるとの印象を与えた被告側にある。

(6) 懲戒事由<6>について

本件が問題とされてから体育学部は調査委員会を設けて調査活動をし、原告に協力を要請し、原告も帳簿等の資料を提出している。しかし、学部の自治の観点から見て、被告が提出を命ずるすべての場合に応ずる義務はないし、被告は、体育学部や原告をはなから信用しない、不誠実な態度をとっている以上、このような者に帳簿等の資料を渡さないのは当然であり、何ら非難されるいわれはない。

(二) 本件懲戒処分の手続的適否について

(1) 教員規則四条本文は、「教員の人事(採用、昇格、異動、休職、復職、退職、解雇及び懲戒)は、教授会等の議を経て行う」と定めているが、この規定の趣旨は、理事会による恣意的な人事を防止し、学問の自由を保障することにある。そうすると、被告理事会が国士舘大学の各学部の教授に対して懲戒処分を行うためには、被告理事会に懲戒権を付与した明文の規定がなければならないところ、このような規定は存在しない。

したがって、被告理事会は、そもそも原告に対して懲戒権を有していないから、本件懲戒処分は違法無効である。

(2) 被告は、本件懲戒処分をするに当たって、懲戒事由に記載された事実に関して原告に弁明の機会を与えていないから、本件懲戒処分は、その意味で適正手続を欠くものである。

2  本件懲戒処分は、それ自体、被告理事らの故意又は少なくとも過失によって行われた、私立学校法二九条、民法四四条一項による不法行為を構成するから、原告は、被告に対して、次の損害賠償及び名誉回復措置を求める権利を有する。

(一) 慰謝料 三〇〇万円

原告が被告の不法行為によって被った精神的苦痛に対する相当な慰謝料としては一〇〇〇万円を下らないが、原告はその一部として三〇〇万円を請求する。

(二) 謝罪文の配布

原告が被告の不法行為によって傷つけられた学内における名誉を回復するには、被告から被告理事全員及び教職員全員に対して、別紙記載の仕様による文書を配布させることが不可欠である。

(三) 弁護士費用 一〇〇万円

3  よって、原告は、被告に対し、(1) 本件懲戒処分の無効確認、(2) 出勤停止期間中の賃金合計二四万五八四〇円及びこれに対する賃金支払日の翌日である平成六年一〇月二六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、(3) 私立学校法二九条、民法四四条一項による不法行為に基づき、<1> 慰謝料三〇〇万円、弁護士費用一〇〇万円、右合計四〇〇万円に対する不法行為日である同月六日から支払済みまで前同五分の遅延損害金の支払、<2> 名誉回復措置として被告理事全員及び教職員全員に対する別紙謝罪文の配布、を求める。

四  被告の主張の骨子

1  本件懲戒処分は、次のとおり、実体的にも、手続的にも適法である。

(一) 本件懲戒処分の実体的適否について

(1) 懲戒事由<1>について

原告は、小西の上司として、職務上小西に対する指示、命令等の権限と監督の義務を負っていたものである。

しかるに、小西は、Iの出願書類に加筆記載したばかりか、その加筆内容も、Iが平成三年一月の全国高校総合体育大会の出場メンバーでなく、出場資格すらなかったにもかかわらず、同大会二位とする虚偽のものであったところ、原告は、Iの高校在学中からIを知っていたことその他諸般の事情から、小西の加筆内容が虚偽であることを承知し得る立場にあったのであるから、小西に対する監督義務違反の責任を負っている。

(2) 懲戒事由<2>について

原告は、強化委員会委員長として、「運動技能優秀学生後期入学試験受験者名簿」の記載について正確、公平を期するよう管理義務を負っていたものである。

ところが、「平成六年度運動技能優秀学生後期入学試験受験者名簿」記載のIの競技歴は虚偽のものであって、原告はそのことを承知し得る立場にあったのであるから、強化委員会委員長としての管理義務違反の責任を問われなければならない。

(3) 懲戒事由<3>について

原告は、ラグビー部部長としてラグビー部寮を管理すべき立場にあるが、同寮には国士舘大学の学生以外の者を入寮させてはならないのに、これに違反したもので、同寮の管理義務に違反したものである。また、原告は、国士舘大学の教員として、入試の公正を保持し、これに対する疑念を抱かれないようにすべき職務上の義務を負うにもかかわらず、いったん入試に不合格となった者をラグビー部寮に入寮させ、練習にも参加させていたのであるから、入試の公正を保持すべき義務に違反するものである。

(4) 懲戒事由<4>について

原告は、強化委員会委員長として、「運動技能優秀学生前記入学試験受験者名簿」の記載について正確、公正を期するよう管理義務を負っていたものである。

ところが、「平成六年度運動機能優秀学生前記入学試験受験者名簿」記載のS及びOの競技歴の記載は、両名の出願書類記載の競技歴と異なった大会名や大会レベルのものとなっており、不正確ないし虚偽の記載と認められるものであって、入試の公正を害するものである。したがって、原告は、これらの記載について、強化委員会委員長としての管理義務違反の責任を問われなければならない。

(5) 懲戒事由<5>について

懲戒事由<1>ないし<4>(特に、同<1>、<2>)にかかわる事実がマスコミによって報道され、文部省から指導等を受けるなどし、国士舘大学の入試の公正に疑念が抱かれることになったのであるから、原告は、その職務義務違反に端を発して学園の名誉と信用を著しく傷つけたことの責任を負うべきものである。

(6) 懲戒事由<6>について

被告は、ラグビー部の部費、寮費等の金銭管理について疑問が生じた場合には当然にその調査をすることができ、ラグビー部長である原告に対し、調査に要する領収書、帳簿等の提出を命じたときは、原告はこれに従う義務があるのに、このような職務上の義務に違反して、領収書、帳簿等の提出をせず、被告の調査を妨げたのであるから、右職務上の義務違反の責任を問われなければならない。

(二) 本件懲戒処分の手続的適否について

(1) 学校法人が、秩序維持・管理のために教員に対して懲戒処分を行うことは、私立学校法三六条にいう「学校法人の業務」の一つとして当然に許されることであるが、被告においては、国士舘大学寄附行為一一条二項において、同条にいう「別段の定め」として右業務の決定方法を定め、理事会が決定をすることとしている。したがって、被告の教員に対する懲戒処分は、理事会が決定することになるものである。

なお、被告理事会は、教員規則四条本文に従い、体育学部教授会の審議を経由した上で本件懲戒処分を決定したが、同条は、懲戒処分の決定に当たって教授会の審議を経由すべきことを定めているのみで、右審議の結果に拘束されるべきことまでを要求するものではない。

(2) 教員規則は、懲戒処分をするに当たっての弁明の付与について何ら規定していないから、本件では、原告に弁明の機会を与えたか否かが問疑される余地はないが、被告は、実際上、原告に弁明の機会を与えた上で本件懲戒処分をしたものである。

2  したがって、本件懲戒処分が違法であることを前提とする原告の請求は、いずれも棄却されるべきである。

第三当裁判所の判断

一  本件懲戒処分の実体的適否について

1  懲戒事由<1>について

(一) 前記争いのない事実、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、(1) Iは、平成五年度体育学部一般推薦、同学部前期試験及び後期試験、政経学部二部後期試験を、平成六年度体育学部スポーツ推薦、同学部前期試験及び後期試験、政経学部二部後期試験を、それぞれ受験したが、このうち、合格したのは、平成六年度体育学部後期試験のみであること、(2) Iの両親は、国士舘大学体育学部出身で、釧路市に居住しているが、かねて原告と面識があり、平成六年三月一七日事情聴取に当たった被告関係者に対し、Iの大学受験について原告に指導を受けた旨述べていること、(3) Iの出身高校(釧路市所在)のアイスホッケー部顧問教員林幸一(以下「林」という)も国士舘大学体育学部出身者で、国士舘大学体育学部のスケート部がほとんど毎年のように釧路地方で行う合宿の世話役を長年にわたってしてきたことから、スケート部の監督である原告とは親しい間柄であること、(4) 林は、平成五年一一月八日、Iの入学出願関係の一件書類を携えて、国士舘大学体育学部に原告の部屋を訪ねてきたが、原告が留守であったため、原告の部屋に席が設けてある小西が応対し、林が在学中から面識のある非常勤講師の部屋へ連れていくなどしたこと、(5) その際、小西は、右一件書類中、スポーツ推薦の関係書類である出身高校長作成の「推薦書」及び「スポーツ競技歴調書」の競技歴欄に、Iの競技歴として、「平成三年一月開催の全国高校総合体育大会、アイスホッケー、団体二位」との記載を自ら行ったこと、しかし、一件書類中のIの「調査書」には、Iの出身高校が平成三年一月開催の全国高校総合体育大会でアイスホッケー団体二位の成績を収めたとき、Iが右大会に出場したことや出場選手として登録されたことを示す記載はないばかりか、現実にも、Iの出身高校のアイスホッケー部がその成績を収めた当時、Iは同部に所属してはいたものの(高校一年在学)、右大会に出場したり、出場選手として登録されたことはなく、登録メンバーとして右大会に出場したのは、同部に所属するIと同姓の別の生徒であったこと、(6) 小西は、原告の推薦を受けて採用された体育学部(ラグビー部)に研究助手として、指導教授である原告に直属して原告の命に服し、原告の授業の補助のほか、広く秘書的な業務等をも受け持ち、原告のために書類の作成などをしたときには必ず原告に報告するようにしていたこと、(7) 右「推薦書」及び「スポーツ競技歴調書」は、そのままスポーツ推薦の出願書類として体育学部に提出されたこと、(8) その結果、体育学部作成の「スポーツ推薦書類審査換算表」に基づき、右表記載の「各種全国大会(高校規模)」の「二位」に相当する九〇点の評点がIに付されたこと、(9) 原告は、当法廷における尋問においても、Iのスポーツ推薦関係の書類について「必要な部分だけは見た」旨供述し、あいまいな表現ながらも、ともかくIのスポーツ推薦関係の書類に目を通した事実は否定していないこと、以上の事実が認められる。

(証拠略)に反する部分は、(証拠略)に照らして採用することができず、他に右認定を左右する証拠はない。

(二) 以上に見られる原告とIの両親や林との関係、原告と小西との関係、その他の事情を総合すると、小西が、原告の留守中に林が訪ねてきたこと及び小西自らIの「推薦書」及び「スポーツ競技歴調書」の競技歴欄に前記のような加筆をしたことを、逐一原告に報告したであろうことを容易に推認することができ、結局、原告は、これによって、Iの競技歴として「平成三年一月開催の全国高校総合体育大会、アイスホッケー、団体二位」という虚偽の記載がされたことを認識したものと認めることができる。そうすると、原告は、小西の指導教授としての立場から、小西がした右記載を是正させるべき職務上の義務があったのに、これを懈怠したため、前記九〇点の評点が付されたものであることが明らかである。

2  懲戒事由<2>について

前記1(二)の判示によれば、原告は、「平成三年一月開催の全国高校総合体育大会、アイスホッケー、団体二位」というIの競技歴の記載が虚偽のものであることを認識していたのであるから、「平成六年度運動技能優秀学生後期入学試験受験者名簿」の「スケート」におけるIの競技歴欄の、アイスホッケーかスケートかの違いを除けばこれと同一の内容に帰着する「二年度全国高校総合体育大会準優勝」との記載もまた虚偽のものであることを認識していたものと認めることができる。そうすると、この点において、原告は、強化委員会委員長として負う「運動技能優秀学生入学試験受験者名簿」の記載について正確、公正を期するべき職務上の義務を懈怠したものということができる。

そして、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、強化委員会作成の「運動技能優秀学生入学試験受験者名簿」は、一般入試の前期・後期試験のいかんを問わず、極めて重要な合否判定資料とされていること、Iが受験した平成六年度体育学部後期試験の合否判定のための教授会において「平成六年度運動技能優秀学生後期入学試験受験者名簿」中のIの競技歴について特に質疑応答といったこともなく終わったこと、しかし、Iは、受験者総数七五六名中七二四位というごく低い順位であったにもかかわらず、合格決定を受けたこと、以上の事実が認められる。原告本人中右認定に反する部分、(書証略)(平成六年四月一九日付け国士大室〇五三号調査委員会報告)中、「Iは準優勝チームのメンバーであるとの理由ではなく、これと同等の技能を有する者との理由で合格が決せられた」とする部分は、いずれも(証拠略)に照らして採用することができず、他に右認定を左右する証拠はない。

そうすると、Iの合格決定は、強化委員会作成の「平成六年度運動技能優秀学生後期入学試験受験者名簿」中のIの虚偽の競技歴によってもたらされたものといわざるを得ないところ、右結果は、強化委員会委員長としての原告が負う「運動技能優秀学生入学試験受験者名簿」の記載について正確、公正を期するべき職務上の義務の懈怠が招来したものということができる。

3  懲戒事由<3>について

(一) 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、ラグビー部寮は、ラグビー部長である原告が管理責任者に指定されているが、体育学部長が建物の賃借人となり、被告理事長が連帯保証人になっていること、敷金(六七五万円)、畳表替え等の小修理経費、ベッド等の備品などは被告が負担するものとされ、寮に居住する学生に対しては生活指導もすることとされていること、などの事実が認められるから、それが、国士舘大学学生の福利厚生を目的として設置された被告の施設であって、入寮資格が国士舘大学学生に制限されるものであることは明らかである。

(二) ところが、前記争いのない事実によれば、S及びOは、平成五年度体育学部後期試験又は政経学部二部後期試験を不合格になり、国士舘大学に入学することができなかったのに、原告は、右両名を、東京都町田市(以下、略)のラグビー部寮に練習生として入寮させ、ラグビー部の練習に参加させたというのであるから、このような措置がラグビー部寮の右設置目的に背反するものであることは明らかであって、右措置をとった原告には、ラグビー部寮の管理責任者として原告が負う職務上の義務に対する懈怠があるというべきである。また、原告は、国士舘大学の教員として、入試の公正を保持し、これに対する疑念を抱かれないようにすべき職務上の義務を負うにもかかわらず、いったん入試に不合格となった者をラグビー部寮に入寮させ、練習にも参加させるという、一般人に入試に対する疑惑を抱かせることが明らかな行為をすることによって、入試の公正を保持すべき右職務上の義務に対する懈怠をも犯したものということができる。原告は、入試で不合格になった受験生を練習生として入寮させる取扱いは国士舘大学の他の運動部や他大学でも行われている旨主張するが、仮にそのような例が他にも存在するとしても、右事実が原告の行為を正当化する理由になるものではない。

4  懲戒事由<4>について

(一) 前記争いのない事実によれば、「平成六年度運動技能優秀学生前期入学試験受験者名簿」の「ラグビー」におけるSの競技歴欄には、「北海道代表候補選手・北海道選抜大会出場・全道大会出場」との記載があるのに、Sのスポーツ推薦の出願の提出書類である「推薦書」には、Sの競技実績として「北海道高校ラグビーフットボール南北選手権大会団体三位、北海道高校ラグビーフットボール大会旭川地区予選団体二位、北海道指導強化選手選考会団体八位」との記載があるにとどまっている。

この点について、原告本人は、(1) 「北海道指導強化選手」の中から約半数程度が「北海道代表選手」に選ばれるから「北海道指導強化選手」と「北海道代表候補選手」とは同じ意味である、(2) 「北海道高校ラグビーフットボール大会旭川地区予選団体二位」の成績を上げれば「北海道選抜大会」に自動的に出場できるのであるから「北海道高校ラグビーフットボール大会旭川地区予選団体二位」と「北海道選抜大会出場」とは同じ意味である、(3) 「北海道高校ラグビーフットボール南北選手権大会」のことを北海道のラグビー関係者は「全道大会」と呼び慣わしているから、「北海道高校ラグビーフットボール南北選手権大会団体三位」と「全道大会出場」とは同じ意味である旨供述する。しかし、(1)の点については、仮に「北海道指導強化選手」のうちの約半数程度が「北海道代表選手」に選ばれるとしても、「北海道指導強化選手選考会団体八位」を「北海道代表候補選手」とするのは「北海道代表選手」に近づけた不相当な表現というべきであるし、(2)の点については、仮に「北海道高校ラグビーフットボール大会旭川地区予選団体二位」の成績を上げれば当該高校が「北海道選抜大会」への出場資格を取得できるとしても、証拠(略)によれば、原告は、実際にSが出身高校の登録メンバーとして「北海道選抜大会」にまで出場したことを確認していないことが認められる上、もともと「北海道高校ラグビーフットボール大会旭川地区予選」と「北海道選抜大会」とは異なるレベルの大会なのであるから、不正確で不相当な表現というべきである。また、(3)の点については、仮に現地でそのような慣用的な呼称が行われているとしても、「北海道高校ラグビーフットボール南北選手権大会団体三位」を「全道大会出場」とするのは、誤解を生じさせる不相当な表現であることに変わりがないというべきである。

(二) 「平成六年度運動技能優秀学生前期入学試験受験者名簿」の「ラグビー」におけるOの競技歴欄には、「広島県代表候補選手」との記載があるのに、Oのスポーツ推薦の出願の提出書類である「推薦書」の競技歴欄には、「第四二回広島県高校対抗陸上競技選手権大会・砲丸投げ個人二位、同上円盤投げ個人四位、平成四年日・中ジュニア交流競技会円盤投げ個人七位」との記載があるにとどまっている。

もっとも、証拠(書証略)によれば、他の一通の出身高校長作成の「推薦書」には「ラグビー部ではフォアードの中心選手として活躍した。三年生になってからは、前広島高校代表の候補として期待されていたが、惜しくも怪我のため選考からはもれた」などの、「平成六年度運動技能優秀学生前期入学試験受験者名簿」記載の競技歴に近いとも受け止める余地のある記載があることが認められるが、前記「推薦書」記載の競技歴のこれとは異なる内容、証拠(書証略)によれば、出身高校長作成の調査書にもラグビー部の一員としての顕著な活動を示すような記録が全く見あたらないことが認められること、などを照らし合わせると、(書証略)の右記載は、Oの競技歴を記載したというにはほど遠い心情的表現に過ぎないことが明らかである。そうすると、「平成六年度運動技能優秀学生前期入学試験受験者名簿」のOの競技歴欄の「広島県代表候補選手」との記載は、提出された推薦書等の関係書類の実態からかけ離れた、誤解を生じさせる不相当な表現であるというべきである。

(三) 以上の次第で、「平成六年度運動技能優秀学生前記入学試験受験者名簿」記載のS及びOの競技歴の記載は、いずれも、両名の各推薦書等の提出書類に記載された競技歴とは異なる、より高位のレベルのものに変えられた、不相当なものと認められ、この点で、原告は、強化委員会委員長として負う、「運動技能優秀学生入学試験受験者名簿」の記載について正確、公正を期するべき職務上の義務を懈怠したものというべきである。

5  懲戒事由<5>について

前記争いのない事実、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、平成六年八月八日から九日にかけて、読売新聞を初めとする新聞、テレビなどで、国士舘大学で入試不正があったとの見出しで、I、S、Oの入試に関係する事実が大きく報道され、同月九日被告が文部省から事情聴取を受け、指導事項を示されるなどのことがあったことが認められるから、このことによって、国士舘大学の入試の公正に疑念が持たれ、被告の名誉と信用を著しく傷つけられたことが容易に推認される。そして、これら報道の対象となった事実は、主に懲戒事由<1>、<2>、<4>に対応する事実であることが認められるから、原告は、右報道によって被告が受けた名誉、信用の毀損について責任があるものというべきである。

6  懲戒事由<6>について

前記争いのない事実によれば、ラグビー部関係の部費、合宿費、寮費、食費等としては相当多種類のものがあり、それが、いずれも「国士舘大学ラグビー部(代表二ツ森修)」又は「国士舘大学ラグビー部後援会(代表二ツ森修)」名義の預金口座に振り込まれているところ、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、平成六年春ころ、ラグビー部の部員やその関係者とおぼしき者らから、被告、文部大臣等に対し、ラグビー部関係の金銭収支の不明朗なこと等を内容とする苦情が寄せられ、文部省から、被告に対し、実情調査の指示が行われたこと、ところが、原告から、被告側に提出された資料はごく簡単なものにとどまり、金銭収支は整合しないままであったこと、そこで、被告側が、原告に対し、ラグビー部関係の金銭収支を明らかにする領収書、帳簿等の提出を要請したが、原告は、これら資料を自己の管理下に置きながら種々口実を構えてその提出を拒否したことが認められる。

そうすると、原告は、国士舘大学体育学部教授の地位にあり、ラグビー部の部長兼監督の地位にもあるのであるから、右認定の事情の下では、ラグビー部関係の金銭収支を明らかにする領収書、帳簿等の提出を求める被告の要請に協力すべき職務上の義務があったものというべきであって、これを拒否した原告の対応は、右職務上の義務を懈怠したものであることが明らかである。

二  本件懲戒処分の手続的適否について

1  証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、被告理事会からの審議依頼に基づいて平成六年九月二六日体育学部教授会で原告に対する懲戒の可否について審議が行われ、「原告に対する懲戒を非とし、学長による厳重注意「訓告」とする」との決定が行われたこと、被告理事会は、体育学部長から右審議結果の回答を受けた後の同年一〇月五日、本件懲戒処分を行うことを理事総数の過半数で決定したことが認められる。

私立学校法三六条は「学校法人の業務は、寄附行為に別段の定がないときは、理事の過半数をもつて決する」と定め、これを受けて国士舘大学寄附行為一一条二項は「この法人の業務は、理事会で決定する」と定めている。私立学校法三六条にいう「学校法人の業務」には、学校法人の目的達成のために行われるすべての行為が含まれ、教員等に対して懲戒処分を行うことも右業務の範囲内の行為に当たるものと解されるから、被告理事会は、私立学校法三六条、国士舘大学寄附行為一一条二項に基づき、具体的な懲戒事由、方法等を定める教員規則の関係規定(教員規則四条本文、二〇条本文、二一条等)にのっとって原告に対する懲戒処分を行うことができるものというべきである。したがって、被告理事会が懲戒権を欠いて本件懲戒処分を決定したというような、原告主張の違法がないことはいうまでもない。

なお、教員規則四条本文によって、体育学部教授会の審議を経由することが求められるが、本件においては、同教授会において原告に対する懲戒の可否について審議が行われているから(教員規則四条本文は、理事会が懲戒処分を決定するに当たって教授会の審議内容に拘束されることまでも要求しているものとは解されない)、この点でも、問題は生じない。

2  被告が本件懲戒処分をする上で原告に対して弁明の機会を与えることが同処分の適否を左右する手続要件としての性格を持つものであるか否かは一考を要する事柄であるが、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、本件においては、同年九月二〇日原告に対して教員規則違反の事実を掲げた上、出頭の日時場所を示して弁明の機会を与える旨通知したことが認められるから、いずれにしても、この点で本件懲戒処分に手続的瑕疵が生ずることはないものというべきである。

三  以上によれば、原告の行為は教員規則二条一号及び三号に違背し、同二〇条に該当するので、同二一条三号により懲戒する、としてされた本件懲戒処分に違法はない。

四  よって、原告の本訴各請求は、その余の点について検討するまでもなく理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 福岡右武)

別紙(略)

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